─暴走族のお姫さま─



逃げていった
男たちの後ろ姿を
しばらく睨んでいると
女の子が震えているのが
わかった。



その時。



女の子が
すごく弱く見えた。




俺は



「もう大丈夫」



と言うと
女の子は
何かの糸が
切れたみたいに
泣き出した。



俺はとにかく
安心するまで
抱き締めた。



しばらくして
女の子が
泣き止むと
腫れた目で
お礼を言ってきた。



「ありがとうございました」



その瞬間。



世界中の時が
止まった気がした。



変わっていない。



何一つ変わっていなかった。



今、俺の前にいるのは
何一つ変わってない
菜奈だった。



そして菜奈
俺を見つめるので
俺は菜奈も
覚えていてくれたのかなと
嬉しくなった。



けど菜奈は
俺を覚えていなかった。



「ん?何かついてる?」



ときいたら菜奈は
変わらない笑顔で
ニコッと微笑み



「あっ、いえ。
助けていただいて
ありがとうございました」


と言った。



正直苦しかった。



胸が痛かった。



でも俺は
何事もなかったかのように
ふるまった。











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