髪を切った日
私の代わりに

「もう、いい。もういいの」

目の前でボロボロ泣く兄に、私は何度もその言葉を投げ掛ける。

「だって、お前、髪」
「もういいんだってば」

しゃっくりに邪魔されて途切れ途切れになる言葉。
その言葉が意味することがわかって、困ったような笑みが、自然に溢れた。

確かに、少しだけもったいなかったかな。とは思う。
あの人の為にのばした長い髪は、男の子みたいなベリーショートに変わっていた。

失恋して髪を切った、なんて、ありきたりな話だ。
私の髪を見た兄は察しが良すぎて、しかも涙もろくて、髪を切った意味を悟った兄はとても悲しそうな顔をして、いきなりボロボロと泣き出した。

フラれた本人の私だって泣かなかったのに、ほとんど関係のない兄が泣くのだから、少しだけ気がめいった。

「髪ならまたのばせばいいじゃん。ね?だからさ、もういいの」

でも、でも……。
兄は目からボロボロ涙を流して、言葉にならない言葉をつむごうとする。

「もう、いいって言ってるでしょ。なんでお兄ちゃんが泣くのよ」

< 1 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop