髪を切った日
なだめるような作り笑いをする。
でも、兄は泣きやまない。
はたから見れば情けないことこの上ない。でも、私には解る。
兄は、私の為に泣いてくれているんだ。
優しすぎる兄は、人の為によく、泣いたり、笑ったり、怒ったりする。
その優しさが、逆に辛い時もあるのだが。
「ねぇ、何で泣くの」
私はきっと今、上手く笑えていない。
「お前、が泣かない、から、だろ」
途切れ途切れになる言葉。
予想通りの返事だったのに、凄く胸が苦しくなって。
「何で、泣かないんだよ」
何で。
泣かないって決めたのに。
潔く諦めて、未練がましく泣いたりしないって思ってたのに。
「泣けよ。そんな面して、無理に笑おうと、するなよ」
わかってる。わかってるよ。
私が笑えてないことぐらい。
だからきっと、お兄ちゃんは代わりに泣いてくれてるんだよね。
「ごめん、」
声がつまる。
「ごめん、ごめんね、ごめんなさい」
堤防が決壊したかのように、涙が溢れた。
好きだった。
どうしようもなく、あの人の事が好きだった。
手を繋いだこと、一緒に帰ったこと、あの人との思い出が弾けて、脳裏にフラッシュバックして―――。