旦那様は社長
「お前の考えてること、バレバレ」
社長が笑ってる。
それも、裏のない素の表情で。
さっきまで、あんなに怖い顔であたしを睨みつけていたのに。
「何?」
「へ?」
「ポーッとしてるから。オレに見とれて」
完全なナルシスト発言。
こんなの、普通の男だったら完全に“痛いヤツ”だ。
思いっきり嫌悪感丸出しの顔を見せると、社長があたしの腕を掴んだ。
「え?……ッ」
首筋にチクッと痛みが走る。
そこは、遠山さんにつけられたキスマークの跡。
「消毒」
「ええッ!?」
そう言い残して社長はリビングを出て行った。
あたしは、少しヒリヒリした感触の残る首筋を鏡で確認。
「あ……」
キスマークが2つ、キレイに重なっていた。
まるで真っ赤な花のように。
トクントクンと鼓動が加速する。
見たこともない社長の怖い顔。
切ない顔。
色んな社長の顔が目の前に浮かんでくる。
ギュッと自分の身体を強く抱きしめた。
今夜は眠れないかもしれない。
ベランダに出て星を見上げると夜風が少し冷たくて、あたしの火照った身体に心地よい空気が流れ込んだ。