旦那様は社長

あたしが泣き疲れて眠っていると、フワッと優しい手があたしの頭におかれ、『光姫』と呼ばれた気がした。


ゆっくり目を開けると、そこには今、夢の中でしか会えないはずの愛おしい人の姿。


ベッドに腰掛けて、あたしの髪の毛をいつものように撫でている。


「光姫」


あたしを呼ぶ優しい声。


「また……夢?」


「バーカ。ホンモノだ。ただいま、光姫」


もう一度あたしの名前を呼んで、ベッドに眠るあたしの身体を抱きしめた。


フワッと社長の香りがあたしを包み込む。


「……ッ!!」


もう、この部屋の残り香が消えかかって不安になっていた。


夢じゃない。

本当に社長が、帰ってきてくれたんだ。


あたしは社長の背中に腕を回し、強く強く、少しの隙間もできないようにしがみついた。


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