旦那様は社長

その時「プルルルル…」と内線が鳴った。


あたしは急いで涙を拭うと、受話器を上げる。


「はい。社長室、葉山です」


《あッ、受付の佐々木です。葉山さん宛てにお電話が入っていますが…》


「……誰からですか?」


《橘様という方です》


“橘”という名前に反射的に身震いした。


今最も話したくない相手……。


《あの、お繋ぎしてもよろしいですか?》


「……えぇ。お願いします」


本当はイヤだけど、逃げるわけにはいかない。


彼女には聞かなきゃいけない、大切なことがあるから。


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