旦那様は社長

「お電話代わりました、葉山です」


《橘です。先日は突然の訪問で失礼しました》


「いえ。……それで今日はどういったご用件でしょうか?」


表面上は淡々と応対しているあたしだけれど、内心はとてもビクビクしていた。


彼女に社長を奪われるんじゃないかという不安が付きまとっていた。


《今日、もう一度お会いできませんか?》


「仕事が終わった後でも大丈夫ですか?」


《えぇ。それじゃあ、以前お会いしたホテルのラウンジでもいいかしら?》


「分かりました。時間は7時で……」


電話を切ったと同時に、社長室から社長が顔を覗かせた。


「あ、社長」

「タバコ買ってくる」

「それなら私が」

「いや、いい。自分で行く」


あからさまに拒否されたことが、何よりも悲しかった。


せめて今日、彼女に会うまでには仲直りしたい。


でなきゃきっとあたし、彼女の顔を見た途端、不安の渦に取り込まれてしまう。


今日彼女に何を言われるのか、だいたい予測がつくから。


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