旦那様は社長
有栖川の後継者。
その響きはまるで、どこかの王侯貴族のよう。
だけどきっとそれに匹敵するくらい、血みどろな後継者争いが繰り広げられる世界に、あたしは足を踏み込んでしまったのかもしれない。
「幸いあなたにはまだ子供がいない。今ならまだ間に合うでしょう?」
間に合わないよ……。
もう遅い。
あたしは社長を本気で好きになってしまったんだから。
もう彼ナシじゃ、生きていけない。
「本当に社長の子供なんですか?」
返ってくる言葉は分かっていたけれど、彼女は顔色1つ変えず、淡々と答えた。
「当然でしょう?誰が父親かなんて、母親が一番分かってることよ」
「……そうですか」
「悠河だって大河が必要なはずよ?あんなに可愛がってくれてるんだから」
胸の痛みとともに、あの日の動物園での3人の光景が頭に浮かんだ。
とても自然で、社長も本当の父親のように見えた。
子供が好きだという社長。
もしも大河くんが自分の子供なら、可愛くないはずがない。