旦那様は社長

その時、タイミングよくあたしの携帯が鳴った。


その着信音を聞けば、相手が誰だかすぐに分かる。


涙を拭いて、泣いていたことが悟られないように息を整えた。


「……社長?」

《光姫か?お前今どこにいる?》

「え?」

《さっき電話してきてただろう?何かあったんじゃないのか?》


それはいつもと変わらない優しい社長の声だった。


もう朝のことは怒ってないのかな?


不安と安心が一気に襲ってきて、また涙が溢れそうになる。


「もう平気。今はマンションにいるよ」

《そうか。オレも今から帰るよ》

「うん。……待ってるね」


きっと社長が帰る頃にはもう、あたしはここにはいないけれど。


《お前、何かあっただろう》

「……どうして?」

《声を聞けばすぐ分かる。お前は分かりやすいから》


そんなことない。

きっとあたしを理解できるのは、社長がとてもあたしを愛してくれているからだ。


どんな些細な変化も見逃さないように、いつもあたしを見つめてくれているからだ。


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