旦那様は社長

《また何か1人で悩んでるんだろ。オレに任せろって言ったろ?絶対お前を傷つけたりしないって》

「……うん」

《待ってろ。余計なこと考える暇ないくらい、一晩中抱きしめてやるから》

「う、うん」

《じゃあな》


離れたくない……。

出て行くのは明日にしよう。


せめて社長の顔を、もう一度だけ。

あの腕の温もりを、もう一度だけ。


あたしのさっきの強い意志が、この一瞬で揺らいでしまいそうになる。


「……ック……社長……離れたく……ないよぉ」


小さな子供のように声を上げて泣いたのは久しぶりだった。


社長が帰ってくる前に、早くここを出なきゃいけないことは分かっているのに。


“もう一度会いたい”


と何度も願ってしまう自分がいる。


< 270 / 334 >

この作品をシェア

pagetop