旦那様は社長
「ふんッ。今は2人しかいないだろうが」
今までは社長のことを“大人で気品溢れる男”と思っていたのに。
こうしてプイッと顔を背ける姿を見ると、まるで小学生の子供みたいに思えてくる。
“大人になりきれない子供”……みたいな。
「会社であることに変わりありません」
「お前な、オレが納豆なんて庶民的な食い物を口にするわけがないだろう。何度言えば覚えられるんだ?」
「社長の今までの食生活を続けておられますと、お身体によくありません」
いくら見せかけだけの夫婦でも、結婚したことは事実なのだから。
社長が万が一病気で倒れてしまった日には、有栖川家の一族から何を言われるか……。
気は進まないけれど、社長の身の回りのお世話はあたしの仕事!
と、自分を励ましながら努力しているのに。
「どうせ早死にするなら、好きなモノだけ食ってた方がいいだろう。納豆なんて得体の知れないものを口にするよりはマシだ」
「……」
社長にはまったく理解してもらえない。
「納豆は大豆ですし、身体にとてもいいんですよ」
「オレの朝飯はな、昔からキャビアだって決まってんだよ。アレがないと一日が始まった気がしない。分かるか!?このオレの複雑な気持ちが!!」