【探偵ピート・ジャンセン】
『もうそれ以上何も言わなくて
いい‥
もっと君の気持ちを考える
べきだった。』
『ピート・・・
もう一つ判った事があるの‥』
ターニャは自分の髪を一本
抜くと、グラスにワインを
注ぎ、その中にそれを
落とした。
それは、みるみる内に
煙りを挙げ、マグマの中に
落とした流木の如く
跡形も無く溶けていった。
『‥私も彼等と同じなのよ‥』
『ターニャ‥!』
気が付くと、私はターニャの
冷たい体を抱きしめていた。
何と言う事だ!
彼女をヴァンパイアと
認識していながら、サラ達
とは全く別の存在の様に
捉えていた。
当のターニャでさえそう
思っていただろう。
私は彼女をただただ抱きしめる
事しか出来なかった。
束の間の沈黙の後、
やんわりと私の腕を離れた
彼女の頬は涙に濡れていた。
彼女の気持ちが痛いほど
伝わって来る。
『さあ、作戦会議よ!』
彼女は私の思いを察してか
無理矢理笑顔を作って見せた。
明くる日、
ターニャは私を置いて、
散弾銃と薬莢、それに
大量のボルドーワインを
仕入れて戻って来た。
多少、ワインのせいで
手の平に火傷を負った様だ。
『ターニャ、君には影響の無い
もっと別の手を考えよう!
ワインは君まで危険に晒す
事になる。』
『依頼人は私よ!
私にはこれを詰める事は
出来ないけれど、貴方に
どうしてもやって
貰いたいのよ。
お願いよ!
もうこれ以上、犠牲者を
増やしたくないの。
有効だと判ったのだから
これが最善の方法だわ!』