【探偵ピート・ジャンセン】
あぁ、そうだ‥。
去年の今頃も、何処から
噂を聞きつけて来たのか?
少年がやって来て、
一つの依頼を告げる為に
父親が宝物として大切に保管
して来た年代ものの著名な
SF作家の初版本をコッソリ
持ち出して来て、
報酬の代わりに私に
差し出した事があった。
確かにその本には
プレミアものの価値が
あった。
勿論、私は引き受けた。
しかし結果は、
湖に落ちてびしょ濡れに
なった私が風邪をひいて
40度を越える熱に浮かされると言う
散々な結末に終わった。
『ピート、これ‥
約束だから‥。』
少年がベッドの脇へ
やって来て例の本を私に
差し出した。
『それは受け取れないな。
それは君の親父さんの物で
君のじゃないだろ?
それに、アレを見付ける
事が出来なかった。』
『でも‥ここ、
大変なんでしょ?』
少年は今にも泣き出しそうな
憐れみの表情で私に言った。
『‥まあな。
気持ちは有難いが‥
じゃあ、君が大人になった時
君が稼いだお金で
支払ってくれ‥。
老後のバカンスの足しに
しよう。』
勿論、報酬となるはずだった
本はそのまま父親に返す様に
言って少年の手に戻した
のだが‥。
毎度こんな調子で
私のオフィスは決して
立派なものではない。
だが今更、方針を変える
気もない。
お気楽だと思うだろうが、
私はそれで満足している。