【探偵ピート・ジャンセン】


ひとしきり涙にむせいだ
彼女は、震える手でピートの
手から離れた銃を掴んでいた。

躊躇いながらも銃口を
一瞬、彼の胸に当てたが、
その銃爪を引く事は
出来なかった。


『‥出来‥ないわ‥
‥ピート‥。』


彼を闇の申し子には
したくなかったのだ。


ターニャはピートの体を
引き摺りながらレンタカーの
場所まで来ると、彼の
ポケットからキーを取り出し
エンジンを回した。


一分の望みを託して
彼女の母体となった
海辺へと向かったのだ。


ルシアスの行方は未だ
判ってはいない。



あれから10日、私は
眠り続けていたらしい‥



もう極上のボルドーワインは
飲めないのか‥



二人は赤々と燃える
太陽の陽射しの下、


これからの永遠分の
数分間、見つめ合っていた。



『ピート、あなたは

ありのままの貴方で
良いのよ‥ 』



目の前のターニャの声が
私の意識の中で
囁き掛けていた‥が、


それだけ言い終えると

以降、私の意識の中では

二度と彼女の声を聞く
事は無かった。




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