楽園まで行けたなら
あたしはそっと、扉を開けて、廊下に出た。扉を背にしたままあたしは玄関に立つゆうとの後姿を見た。
廊下は2メートルも距離がないから、ゆうとが向き合っている相手の顔は、はっきりと分かった。
知らない人、だったけれど、ゆうとと同じぐらいの年代だろうから、友達なのかな。
その人が、あたしを見た。
はっと、すごく大きく目を見開いて。悲しそうな目になって、でももしかしたら怒っていたのかもしれなかった。きゅっと眉を寄せていたから。
その人があたしの名を、呼んだ。
「夏帆」とあたしを呼ぶゆうとよりも少し低い声は、とても戸惑いを含んでいて。
けれどあたしは条件反射のように、にこと笑った。
その人の顔に浮かんだのは、今度は確実に、悲しみになっていて、あたしはなんでか分からなかった。