泡夏
「うつつとは現実という意味で・・・・」
古典の先生があずま下りについて説明し始めた。
窓から風が入ってきて、薄緑色のカーテンを揺らした。
穏やかないつもと変わらない日々。
変わりたくない。
いつまでも同じように友達と
適当な距離をとって、
いつもと同じ楽しくもなければ
辛くもない日々が続けばいいと思う。
たぶん、アタシは・・・
変わることが怖いんだと思う。
卵の殻の中にいる雛と同じで、
いつまでも殻の中にいれば安全で、自分が傷つくこともない。
私はグランドを見下ろした。
そこには貴樹先輩が体育でサッカーをしている姿があった。
汗を流しながら、クラスメイトとボールを追いかけている様子はキラキラと輝いて眩しくて、不意に胸が高鳴った。
私は胸のあたりの白いブラウスを
強く握りしめた。
バキッ
殻にひびがはいる。
ダメだ。
こんなの
いつものアタシじゃない。
私は貴樹先輩から目をそらした。
明菜を見ると黒板のほうを向いていて、ホッとした。