†Orion†〜Nao's Story〜
疑うように辻さんを見ると、彼は苦笑しながら口を開いた。
「まぁ……そういうこと。本命の彼女がいるってのに、二股かけられてさ。だけど、それがきっかけで俺と彼女、付き合えるようになったんだから……ちょっと複雑だな」
「うそ……」
「……奈緒ちゃん。辛いかもしれないけど、現実を知ったほうがいいよ」
ずっと、噂にすぎないと思っていたのに。
先輩があたしを見る優しい瞳。
“初めて”のときに、慈しむかのように抱きしめてくれた大きな腕。
非情なことをするような人じゃないって信じていたけれど。
実際に“被害”に遭ったという人が目の前にいる。
――ちがう。
あたしは、自分の目で見たものしか信じない。
だってそうでしょう。
森谷が言うように、彼女とまだ続いているんなら、どこでその時間を作っていたの?