†Orion†〜Nao's Story〜


何を言うのか決めてもいないくせに。

勢いのあまり、森谷を引き止めてしまったことをほんの少しだけ後悔する。



「えっと……、ありがとう……」



ありきたりな言葉しか思い浮かばない。

ガラにもなく、あたしはあの森谷を前にして、緊張のあまり涙目になってしまう。



「……なんていうか……あたしは……」



この緊張は、先輩に告白したとき以上のものだ。

酸素が足りない。急激に喉が渇いてくる。心臓が破裂してしまいそう。

呼吸のしかたさえ忘れてしまうほどの緊張感。



「…………っ……」



なにも泣くことないのに。

先輩のことで散々泣いて腫れた目から、涙がぽろぽろとあふれ出す。


< 159 / 220 >

この作品をシェア

pagetop