†Orion†〜Nao's Story〜
一度は遠くなった森谷の足音が、今度はこっちに近づいてくる。
「ちょ……、待って! 今日はこれ以上近づかないで。営業終了っ!」
そばに来た森谷は、もうすでにあたしを抱きしめようとする体勢に入っていて。
すっかり気が動転してしまったあたしは、わけの分からないことを口走る。
間近に迫ってくる森谷の程よく筋肉のついた胸板に、あたしは自分の両手を力いっぱい押し当てて抵抗する。
「あ、あああたしっ、今日、失恋したばっかりでしょ? だから今日は、そっとしといてほしいの……っ」
「……引き止めたのはおまえだろうが」
「……いやっ、そうだけど……っ」
精一杯の抵抗もむなしく、森谷はあたしの両手を自分の体から引き離すと、ふわりと優しく包み込んだ。