†Orion†〜Nao's Story〜


「お父さんに差し入れだよ。仕事忙しいって聞いたから」


「奈緒……」



お父さんが情に脆いとか。

あたしの“お父さん”という言葉に、敏感に反応するとか。


そんなこと分かっていたけれど、あたしは呆れたりしないで、涙ぐんでいるお父さんを見てにこりと笑った。



「もう! また仕事に戻るんでしょ? 寡黙で厳しい料理長さんが泣くなんて」


「そ……そうだけど……っ」


「いちいち泣かれていたら、あたし、お父さんなんて呼べなくなるじゃない」


「う……」



あたしが娘であることや、“お父さん”と呼ばれることがこんなに嬉しいなんて。


あたしも本当は嬉しいよ。


家族のことを思ってくれているお父さんの姿を目の当たりにするたびに。

本当は、泣きたいくらいに幸せを感じるんだ。



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