僕らの、

あれから1週間。



一人暮らしの家に帰ると、私はベッドに寝転んだ。

両親は、ずいぶん前に離婚し、母と2人で長く暮らしていたが、最近、病で亡くなった。

母の葬式で父と会い、これからのことを話し合ったが、私もその頃はバンドでそこそこ儲けていたし、いい年だったので、これを機会に一人暮らしすると言った。

それ以来、父とは会っていない。



私の手には、マネージャーさんから受け取った連絡先がある。

断る勇気がない自分がいる。


『あんたみたいなドラマーを、探してたんや。』

マサの言葉が聞こえる。

私を…必要としてくれてるんだ。

期待、してくれているんだ。



……でも、だからこそ、断らなきゃいけない


いくら、あの人たちが私を探していても、いくら、あの人たちが私のファンでも、もう、あの人たちのレベルは、私が叩き出す音では物足りないはずだ。

それに、演奏しているときの、あの3人に通ずる笑顔。

すごく素敵な笑顔だった。
だからこその演奏だった。

それを見ているマネージャーさんも、素敵な笑顔だった。

正直、ケンカでバンド解散した私にとって、すごく羨ましい笑顔だったけど。




私は、マネージャーさんに電話をかけた。

大丈夫。ほんの少しの勇気だけなんだ。


『もしもし?』

「あっ、あの、立川です、」

マネージャーさんはどこかの飲食店にいるようで、いろんな人の声がガヤガヤと聞こえた。

……特に、ある1人の声が聞こえる。

『あっ信ちゃん信ちゃん、立川さん!?』

…マサだ

『おんそうや…ってちょっ!!』
『こんばんはー立川さん久しぶり!!!いきなしやけど、立川さんもこっちおいで!楽しいで~!!!』

この勢い…よっぱらってる?

「えっ…私、お返事の電話を」

『あ~そんなんあとでええから!!とりあえず、来い!!今日朝ズバで特集されとった居酒屋な!!5分以内!じゃ!!』

「ちょっ…!!」

切られた!!!

朝ズバの居酒屋って…あそこしかないよね!?

「あそこ、車でも40分以上かかるのに…!!」
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