妄想哀歌[短編集]
「いいけど、グロスつけてるんじゃない?」
「大丈夫!今日はいいの!ちゅーしたいの!」
タコ唇で迫ってくる。
少女のように
けれど大人の女みたいな魅力がある。
「んんっ」
ヒールを履いてるのに大分背伸びしてる
彼女の唇はとても柔らかく暖かい
時がそこだけ止まったように
僕らの周りだけは世界を切り取ったようだった
「はい!おしまい!」
「自分で言っておいて?」
「うるさいな!背伸びが疲れるの!」
「唇がグロスで、すごいんですけど」
「したかったからしょーがないでしょ!」
彼女は僕に背中を向け恥ずかしがっている。
そして僕らは
また大いに彼女もさっきよりも笑い合った
僕はこんなにも大切な人を傷付けてしまうのかも知れない
それなら僕は、
決める 自分自作の気持ちを
大丈夫、彼女が幸せなら僕は
「あ、あのさ…」
「月曜は見送りは行かないから」
背中を向けているのに
なんとなく なんとなくだけど
彼女の顔が見える気がする。
泣いて、る?