月から堕ちたアリス
明らかにこの世に生きる者ではないその少年を目の当たりにして、あたしは言葉を失った。





「俺、全部知ってるよ。」

『え……??』

「あんたが胸に抱えてる、重〜い気持ち。」

『……………。』

「いつも兄と自分を比べて、自分ばかり厳しく非難してくる親。」

『――っ??!!』

「お互い何でも話せるまでの仲じゃない、うわべだけの友達。」

『…い、や……』

「自分を女を切らさないためのストックにして、都合の良いときだけ必要としてくる彼氏。」

『…や、めて……』

「どこにも自分の居場所が感じられない…



―――そんな自分の人生。」



『やめてぇ――――!!!!』



自分の周りの全てを拒むように、あたしは両手で耳を塞ぎ、目をギュッと閉じた。



もう何も見たくない…

もう何も聞きたくない…



「嫌なら、やめちゃえば良いのに。」

『…………。』

「そんな家族も、友達も、彼氏も。そんな人生やめちゃいなよ。」

『…簡単に、言わないでよ…』

「簡単だよ。こんな世界にいるからやめられないんじゃん。」

『は…??』

「“あっちの世界”に来なよ。」





どういう意味……??



その世界に行けば、あたしはこんなに悩まなくて済むの―――??



その少年はどこからか何かを取り出した。



『あたしの、鞄…!!』

「返してほしかったら、俺を捕まえてみな??」



少年はあたしを見てにやりと笑うと、走り出した。



『ちょっ…?!待って!!!!』



あたしも釣られて、その少年を追い掛けて走った。
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