月から堕ちたアリス
「優、こんなところにいたのか。」
振り返ると歩がいた。
『歩…何でここに??』
「優のことなんて何でもお見通しだよ。さぁ、帰ろう??」
歩はあたしに手を差し伸べてきた。
『…帰るよ………ワンダーランドにね。』
「…何言ってるの、優??」
『あたしは有村 優じゃない。――ワンダーランドの救世主(アリス)だ!!』
あたしはそう言い切った。
歩は驚愕の表情を浮かべる。
『ここでは凄く楽しくて幸せな毎日を送れた。だけど、こんなの有村 優のときのただの理想!!』
「…………。」
『これは存在しない幻の世界――“夢”なんだっ!!』
あたしがそう叫んだ瞬間、歩だったハズの姿は別人の姿へと変わっていった。
『あんたは歩なんかじゃない…一体誰なの?!』
姿が変わった後の人物は白のマントを纏った黒髪の少年だった。
瞳も澄んだ黒色をしている。
「折角理想の世界に案内してあげたのに…よくこれが夢だと見抜けたね。さすが塔をここまで突破してきただけのことはあるよ。」
『この神社のおかげだよ…!!夢でもここまでリアルに再現できてるなんてね。』
「そりゃあね。ただの夢じゃないからさ。これは僕が創り出した完璧な幻想空間だ。」
『でも夢だと見抜かれることが弱点みたいだね。』
「確かに、見破られることでこの空間に歪みが生じて効力が弱まるのは事実だ。…けど、」
少年はあたしを見据え、両手を前に出した。
「見破られたなら違う新たな夢を再構築してそこに引きずり込むだけの話…!!何度でも何度でも…君を理想の夢の中へ案内してあげるよ。」