恋・したい
いつもならそれだけで諦めるのに、今日は私達しかいないせいか果敢に攻めてきた。

「美味しいお店知ってるんですよ―」

とか

「野上先生にも食べて欲しいんです」

とか

「用事が済むまで待ってます」

ってしつこい。
同じ職場だし、これから暫くはこの学校に居る訳だしなぁ…
仕方ない、諦めるか…

『どんなお店なんですか?早く行きましょう』

三浦先生は、ぱぁっと顔を明るくして

「はいッ!!」

だから声大きいってば。バッグを持ち職員室を出て

『先行っててください。後で行きますから』

鍵を持ち、美術室へと向かう。


『星山、閉めるぞ』
「先生、帰るの?」
『もう昼だからな。腹減らないのか?』
「もう昼!?ヤベ、約束あったんだ」
『自分の物だけ片付けていけ。後は私がやっておく』

星山は絵筆と絵の具を無造作に机に置き、パレットを袋に入れて学生鞄を担いで

「じゃ、お願いします」

と走り去っていった。
美術室に入ると絵の具の匂いが鼻につく。
もしかして油絵の匂い?
星山はどんな絵を描いてるんだろう。ちょっと見ても構わないよね。
好奇心でキャンバスを覗いた。
そこには―

「野上先生、行きましょうよ」
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