准教授 高野先生の恋人
桜庭さんの次の言葉を察しつつ、私は淡々としゃあしゃあと言った。
「わたくしには心から仕えてくれる執事がすでにおりますので。あしからず」
ホントは、はシツジ(執事)じゃなくてヒツジ(羊)なんだけど……。
そうして私は、美術館には一緒に行けないことを彼に告げた。
「なんか、すみません」
「謝らないでよ。ボクのほうこそ困らせてごめんね。申し訳ない」
「いえ、そんな……」
「あーあ、ちょっとそんな気はしてたんだよねぇ。
真中君も鈴木サンには彼氏いそうみたいなこと言ってたし。
あのさ……ねぇ、どんな人なのかな?鈴木サンの彼氏って?」
桜庭さんは遠慮がちに、だけど興味津々といった面持ちで聞いてきた。
「そうですねぇ、どんな人か……」
私は少し思案して、それからこう答えた。
「とても正しい人ですよ。正しく臆病で、正しくヤキモチ焼きで。
もしくは……よせばいいのに狼に憧れる変わり者の羊、みたいな」
自分で自分の言ったことが妙に可笑しくて、私はくつくつと笑った。
桜庭さんはそんな私に、きょとんと一人不思議そうに首を傾げたのだった。