姫の導-ヒメノシルベ-
 
 
起き上がる気力もなく、荒い息遣いのまま悠唯は顔を伏せた。
 
すると、ざっと足音がする。
 
 
のろのろと顔を上げると、黒ずくめの男がいつの間にかタカから降り、悠唯を静かに見下ろしていた。
 
 
どくん、と。不穏に心臓が跳ねる。
 
 
 
『…ああ、お泣きになられて。逃れようとあがくから、怖いと感じるというに…』
 
 
 
そう小さく呟く男。
その呟きを耳にした悠唯は、思わず男を睨みあげた。
 
 
だがその強がりも男に鼻で笑われ、一蹴りにされてしまう。
 
 
 
『もう、逃しはしない。さあ参ろうぞ、姫よ…』
 
 
 
勝ち誇ったように口端を吊り上げ、男は地に膝をつき、悠唯に向けて手を伸ばした。
 
 
 
「……っ…!」
 
 
 
その手に怯え、きゅっと目を閉じた、その刹那。
 
 
 
『ギュアァアァアアッ!!』
 
 
 
『…っロン!?』
 
 
 
急に、先程男が乗っていたタカが絶叫しだしたのだ。
天を仰いで、口ばしを大きく開けて、叫ぶ。
 
 
そのらんらんと輝く赤い目が、僅かに黒く変わった。
 
 
そんなタカの様子に、男は切羽詰まったように立ち上がり、それを見上げる。
 
 
 
『…っ落ち着け!何があったのだ、ロン!!』
 
 
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