姫の導-ヒメノシルベ-
男の声は、タカに届くことなく掻き消される。それに、男は焦れたように手を握りしめた。
そんな様子をじっと眺め、悠唯はごくりと生唾を飲んだ。
今ならば、逃げられる。
男の注意が逸れている、今ならば。
痛む体に鞭打って、悠唯はよろめきながら立ち上がった。
―――が。
「…ンむっ!!」
急に口許を何者かの手によって塞がれ、悠唯は目を見開いた。
どくんどくんと心臓が駆け聴覚を邪魔し、とてもうるさい。
そろそろと目だけで背後に視線を移すが、その手の主は見えなかった。
今度は自分の口を塞いでいる手を伝って視線を移して行き、それを見ようとする。
そして。
「…っ…!!」
息を、呑んだ。
すぅっと、肝が冷えていくのが感じられる。
それは。その手は、地面から生えていたのだ。
コンクリートの、固い地面から。
長い両の腕が、悠唯の体に絡み付いている。
がくがくと、足が震える。
いや、足だけではない。
全身が、震えている。
誰か助けてと、悠唯は胸のうちで叫んだ。
すると。