姫の導-ヒメノシルベ-
――…お静かに、姫よ…――
静かだが厳しい声音が、悠唯の脳に直接響いた。
それは先の男とはうって変わって、柔らかいものである。
――…姫を、お助けしたく参上しました…――
「…た…すけ…?」
ゆっくりと口から手が離れて行き、それを機に悠唯は震える声を搾り出した。
すると、ふ…とほのかに笑う気配がし、悠唯は目をしばたたかせる。
恐怖心が徐々に薄れて行くのが感じられた。
「…あの、あなたは…?」
小さく声をひそめながら、手に問う。
それの付け根だけは見ないように。
すると、その手が悠唯を引きながら、答える。
――…私は、スタルニー…。スタルとお呼びください。…さぁ姫、こちらへ…――
「…わ…!」
くんっと腕を引かれ、悠唯はそれに引かれるまま、ついていく。
その腕は、固い地面から生えているにも関わらず、動きがスムーズだ。
その事に違和感を感じ、思わず悠唯はその腕の付け根をそろりと見た。
「………」
見なければよかった。
ぎぎぎぃ…という固い音の聞こえそうな動きで、悠唯は首を背ける。
スタルニーの腕を、見ないように。
その長い腕は、地面をすいすいと進んでいたのだ。
その姿はまるで、海の中から両の腕だけを出し泳いでいるかのよう。
ご丁寧に波紋までもを広げて。
その様子は、軽くホラーとしか言いようがない。
――…どうされた?姫よ…――
「……なんでもないです…」
夢。
そうだ、これは夢だ。
そうに違いない。
自分にそう言い聞かせ、悠唯は足を進めた。