姫の導-ヒメノシルベ-
 
 
「…どうして?」
 
 
スタルニーの言葉に悠唯は小首を傾げる。
 
 
確かに、恐ろしい体験をしたものだから、忘れたいとは思うだろう。
だが忘れろと言われれば、逆に何故と疑問が沸いて来るのだ。
 
 
悠唯の問いにスタルニーは黙り、腕を宙に伸ばして人差し指ですっと空を切る。
 
 
 
――…どうしても、ですよ…――
 
 
 
瞬間。
 
 
 
スタルニーの指が切ったところが、びりっと音を立てて裂け出した。
 
それは、まるでブラックホールのように黒い渦を作り出している。
 
 
それを見て目を見開いた悠唯は、ごくっと無意識に息を呑む。
 
 
「…っスタルニー、さん…!…これ…っ…!」
 
 
――スタルで構いません。…これが、穴です…――
 
 
呆然とした悠唯が声をあげれば、スタルニーからふふと笑う声がする。
 
 
だが、時間が経つに連れて徐々に広がっていく穴に気を取られていた悠唯には、それは届かなかった。
 
 
次第に大きくなる、何かを吸い込もうとする音。
 
 
最初の内は拳程度の大きさだった穴は、みるみる内に人一人飲み込めるような大きいものになっていた。
 
 
 
穴に、吸い込まれる…!!
 
 
 
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