姫の導-ヒメノシルベ-
 
 
「…っスタル、さん…っ!!」
 
 
まるで、強風が悠唯の背中を押しているような…――否、見えない何かに全身を引っ張られているかのような、不思議な感覚。
 
 
それが恐ろしくなった悠唯は、必死にスタルニーの名を呼び足を踏ん張る。
 
 
――…姫よ、安心なさってください。怖いことなどありはしないのです。…それを、くぐるだけでよいのです…――
 
 
「…っほん…と…っ!?」
 
 
――…ええ、本当です…――
 
 
スタルニーの柔らかい声音にホッとした悠唯は、微かにだが力を抜く。
 
 
 
すると。
 
 
 
「…っきゃあぁぁあっ!!」
 
 
 
ぐんっ!!と急に吸い込まれる力が強くなり、予想外のことに悠唯は悲鳴を上げた。
 
 
そのままものすごい勢いで穴にダイブしてしまう。
 
 
 
 
 
 
―――と。
 
 
 
 
 
 
急に意識が遠退き、悠唯は思わず目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
意識が断たれる直前に残ったものは。
 
 
 
自分の手首が掴まれる、冷たい感触と。
 
 
 
『――逃しはしない、姫…』
 
 
 
酷く恐ろしい、冷たい声音だった―――……。
 
 
 
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