姫の導-ヒメノシルベ-
「………」
いつになく弱気な自分を嘲るように、悠唯は苦笑した。
らしくない。
いつも弱気になることだけは避けて来ていたのに、今までないほどに後ろ向きだ。
本当に、らしくない。
今の状況が現実だろうが夢だろうが、自分に起こっている出来事ということには変わりないのだ。
諦めるには、まだ早い。
できることは、まだまだあるはずだ。
「…っ…!」
ぱっと顔を上げた悠唯は、自らの頬を両手で叩いた。
ぱんっ!と軽快な音が高く響き渡り、叩いた頬にはじんじんと痛みが走る。
だが、その痛みを気にもとめず、悠唯はがばっと立ち上がった。
そしてすぅ…と空気を吸い込み、思いきり、声を張り上げる。
「…っ負けるな、悠唯ー!!」
『負けるな』。
それは、悠唯が小さい頃から好んでよく使っていた言葉だ。
そしてそれは、悠唯にとっての魔法の言葉となっている。
勝たなくてもいい。だから、負けるな。
自分に、負けるな。
暗に諦めるなという意味も、それには混じっているのだ。
大丈夫、大丈夫。
自分ならやれる。
だから、負けるな。
諦めるな。
そういい聞かせると、悠唯はいつも心が強くなったように思えるのだ。
照り付ける太陽の下、悠唯は大きく伸び上がった。
諦めないと、最後に小さく呟いて。