姫の導-ヒメノシルベ-
ぱんぱんっとコートに付いた砂を払うと、悠唯はそれで頭を覆った。
直射日光を避けるためだ。
日射病にでもなり卒倒してしまったらもう、一巻の終わりだからである。
今までそれをしなかったのは、気付かないうちに落ち着きを取り去ってしまっていたからに違いない。
でなければ、こんなに体力を消耗する前にこうしていたはずだ。
一度大きく深呼吸をして気持ちを切り替え、前を見据える。
瞬間。
「…っきゃあ…!」
悠唯は突然バランスを崩し、思わず悲鳴を上げた。
慌ててしゃがむようにして、バランスを取り直す。
そして。
「…っな、何なの…っ!?」
愕然と、自らの足元を見下ろした。
ずずずず…と奇怪な音を立てて、悠唯の足元の砂が盛り上がっていく。
時折獣の荒い息のようなものが耳に届き、悠唯は思わず息を呑んだ。
何か、いる…!!
がくがくと震える体に気付かないふりをし、悠唯は慌ててその盛り上がって来ている所から飛び降りた。
ずさっという音と共に、悠唯は砂の上に着地する。
その刹那。
『…ッガァアァアアアッ!!』
「…っ…!!」
さっきまで悠唯が立っていた所が弾けるように散り、砂が宙に放り出された。
そしてその音にはっとした悠唯の目に映るのは、宙に浮かぶ、ライオンのようなシルエット。
「…っな…っな…!!」
震える指でそれを指差し、口をぱくぱくさせ。
「…っ何なのよー!!」
悲鳴にも似た悠唯の叫びが、獣の咆哮により、虚しく掻き消された。