恐怖 DUSTER
「弥生、里美の言うとおりだよ」


麻美は、いつのまにか携帯での会話を済ませ弥生の後ろに立っていた。


「弥生の知りたい事は、私が教えてあげるから」


そう言う麻美の表情は、とても悲しそうである。弥生は時おり見せる魔性の表情の麻美と、この悲しい表情の麻美を見ると何も言えなくなってしまう。


「ご、ごめんね・・・」


弥生は、自分が感じる疑念も言えず、ただ誤る事しかできなかった。


またしても、重苦しい空気がその場に立ち込めてくる。


誰一人言葉を出さず、ただ沈黙の時だけがむなしく過ぎて行った。


麻美は、弥生の知りたい事を、教えると言ったが自分から語りかける事はしなかった。


里美も麻美の言葉を待っているかのように麻美を見つめたまま沈黙していた。


千恵は、自分をかばった里美に驚き感動しているのか、里美を慈愛の眼差しで見つめたままでいた。


・・・麻美は、私の言葉を待っているの・・・?


この場に漂う重苦しい沈黙と、麻美の訴えかけるような視線に弥生は心が押しつぶされるような感覚にな。


・・・麻美・・・


弥生は、救いを求めるように麻美の視線に自分の視線を合わせてみる。



しかし、麻美は何も言わず無言のまま弥生を見つめるだけであった。


自分を見つめる麻美の視線は、とても厳しく、それでいて優しかった。



・・・麻美は、待っているんだ・・・


弥生は、麻美の沈黙を理解した。


麻美の思いを感じる事ができ、弥生は意を決したように、この場の重苦しい沈黙を破ろうとした。


「あっ!裕子たちだ」


沈黙を打ち破ったのは、弥生ではなく、里美であった。


意を決して、麻美に対する疑念を打ち消すため、自分の知らない「あの人」の事などを問いかけようとした弥生の思いは瞬時に消えてしまい、流されるように里美の指差す方を見た。

その視線の先には、川べりの土手の道を自分達の方へ歩いてくる二つの人影が見えた。
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