恐怖 DUSTER
しかし、その後の恵子の言葉によって安堵の中で消えかかっていた、恐怖と嫌悪感の思いが再び沸き起こってきた。


「・・・本当は私もね、何日もなにも食べていなかったから、ものすごく食べたかったの・・・」


「死体を運んで、その死体に群がりむさぼり食う子供達の中に何度も入っていこうかと思ったわ・・・」


あきらかに、自分を見つめる弥生の視線が嫌悪と恐怖に満ちていくのを恵子は感じた。


「・・・そんな目で見ないでよ・・・私は思っただけ・・・食べてはいないんだから」


恵子に、そう言われて弥生は慌てて視線をそらした。


「ご、ごめんね!・・・私、そんな変な目で見ていた?本当にごめん恵子!」


謝罪する弥生を楽しそうに見つめながら恵子は言った。


「くす♪大丈夫!そんなに気にしていないから・・・」



・・・そんなに・・・?


そんなにと言う、恵子の言葉に弥生は少し落ち込み後悔した。


・・・そんなに・・・て、ことはやっぱり少し気になってしまったんだ・・・


「ごめんね!本当にごめんね!」


何度も誤り続ける弥生の頬に手をあて、恵子は微笑みながら優しく言った。



「・・・弥生は、本当に良い子だね・・・麻美が大切に思うのもよく解るよ・・・」


そう言うと、恵子は少し離れながら前を歩く麻美に優しい視線を向ける。


麻美は何度も、後ろを振り返りながら弥生と恵子の様子を見ていた。


そうする度に、千恵と裕子のどちらかにたしなめられていた。


里美は、そのすぐ後ろを自転車に乗らずひきながら歩いていた。



そんな麻美達を見つめる弥生の瞳には慈愛の思いが溢れていた。



「・・・みんなも、良い子だね・・・私と違って・・・」


ぽっりと言う恵子の表情には、たった一人遥かな年月を経て、普通の人として生きていけなかった孤独と疎外感にさいなまれているようだと弥生は感じていた。


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