恐怖 DUSTER
「恵子は何も食べれなかったの・・・?」


「食べれたよ、お菊ちゃんが自分に配給された食べ物を分けてくれたから・・・」


「お菊さんが・・・?」


「そう、お菊ちゃんがね。お菊ちゃんのお父さんは、お殿様に目をかけられていた庄屋さんだったから、お城の中でも特別扱いされていたのよ」


「だから、お城の一番安全な本丸にいるお殿様のそばにいて、食糧などもちゃんと与えられていたのよ」


「お菊ちゃんは、本丸の外に居る私を気にしていてくれて、戦火の中を私を探しだして自分に与えられた食べ物を分けてくれた・・・」


「恵子は、お菊ちゃんのおかげで飢え死にしなかったのね」


「そうなんだけど・・・お菊ちゃんもお父さんに見つからないように抜け出しさなければならなかったから、毎日は食べられなかったわ・・・」


「一週間に、二回ぐらいかな・・・?」


「一週間に、二回だけって!・・・それで大丈夫だったの?」


「大丈夫な訳けないじゃない、私はどんどん痩せ細っていったわ・・・」


「それでも、死体を食べる事だけはできなかった・・・」


「食べてしまうと、もうお菊ちゃんとは友達でいられなくなってしまうんじゃないかと思って。・・・それだけは死んでも嫌だったから・・・」


お菊ちゃんに対する恵子の思いの深さを感じる弥生。


「恵子は、本当にお菊ちゃんのことが好きだったのね」


そう弥生に言われて、屈託の無い笑顔で感情を込めながら恵子は答えた。


「うん!大好き♪・・・お菊ちゃんは、私の憧れの人だから」


しかし、恵子の笑顔はすぐに消え去り、重い口調で話し始める。


「・・・でもね・・・日がたつにつれ、お菊ちゃんも抜け出す事がなかなかできなくなってしまったの・・・」


「私は、待ったわ・・・お菊ちゃんに会える事だけを生きる糧にしてね」


「そのためなら、死体以外のものならなんでも食べた・・・蛙や蛇や虫などだけでなく木の皮までもね・・・」



「・・・お菊ちゃんに会えるなら、どんな事でも耐えられた・・・」






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