恐怖 DUSTER
悲惨な状況の中、今にも死にそうな恵子にとって、お菊はただ一人の支援者であり唯一の希望の存在であった。


そのお菊が戻ってきてくれた事が、恵子の運命を変えてしまったのである。


「私ね、お菊ちゃんが逃げ出してからね・・・みんなに食べられた子の左手首を持っている事に改めて気づいたの・・・」


「私は、お菊ちゃんの声を聞く前は、その手首を食べようとしていた」



「人でなく獣になってしまおうとしていた自分が恐ろしくなった・・・」



「そして私は、その手首を投げ捨て、たとえ飢えて死んでも人でいる事を選んだの」


「・・・でもね、空腹の辛さには耐えられなかったから、少しでも飢えをしのごうと池の水を飲もうとしたのよ・・・その時にね・・・」


「・・・その時に・・・なに?」


「お菊ちゃんが戻って来てくれたのよ。一度は逃げ出したお菊ちゃんだけど、私の事を心配してくれて・・・」


・・・良かった・・・・


既に恵子の話しに惹き込まれていた弥生は、お菊が戻ってきてくれた事に一時の希望を感じて安堵した。


しかし弥生の思いとは違うのか、恵子の表情はとても暗かった。


「・・・私ね、嬉しくて大きな声で叫んだわ!」



「お菊ちゃんー!てね・・・」



「お菊ちゃんは、私の声に気づいてくれて池のそばにいる私の方へと来てくれた」



「池の周りは私の背より高い茂みにおおわれていたから、声を掛け合いながらお互いを探したわ」



「でもね・・・その時に・・・私、気づいてしまったの・・・」



「お菊ちゃんが来る前に、食べようとかぶりついた手首の血で・・・」




「・・・真っ赤に染まった、自分の恐ろしい顔が池に映っていたことに・・・」
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