恐怖 DUSTER
「それから、お菊ちゃんの心を消滅させて入れ替わった私は、目の前で大勢の人たちに食べられている自分を・・・自分の体を見つめていたわ・・・」


「でもね、その時はまだ自分がお菊ちゃんに入れ替わったなんて気づかなかったから、どうして目の前で自分が大勢の人たちに食べられているのかが理解できずにいた・・・」


「戸惑いながらも最初に思ったのが、自分は死んでしまって魂だけの存在になってしまって、食べられている自分の体を見ているんだと思ったわ・・・」


「醜く痩せ細った私の体を、飢えた大勢の人達が引き裂いて美味しそうに食べていた・・・」


「不思議な事に、そんな悲惨な状況を見ていても、私は恐怖も悲しみも怒りさえも感じていなかった・・・」


「ただひたすら、私の体を食べている人達に向かって早く食べつくしてほしいと願うだけだった・・・」


「・・・私の醜い体を・・・」


「・・・お菊ちゃんに見られる前に・・・」



「そう願っていた時に気づいたのね、お菊ちゃんがその場にいないことに。私が先ほどまで目を隠していたのにどこにもいないお菊ちゃんが心配で私は探し回り池のほとりで気づいたの・・・水面に映る私の姿が・・・お菊ちゃんだったことに・・・」


「・・・私は、訳の解らない出来事に思考が対応できず、その場で放心状態のまま何時間も立ちすくんでいた・・・」



「・・・池の水面に映るお菊ちゃんの姿を見つめながら・・・」



「・・・そして、私は答えを出した・・・」



「・・・私は、お菊ちゃんの心を消してしまった・・・」



「・・・私が、お菊ちゃんの心を食べてしまったんだと・・・」




弥生は、大好きなお菊の心を消してしまい絶望的な恵子の悲しみを感じていく。



「・・・辛かったでしょうね・・・?」



その時の恵子の心情を思い、同情の念を弥生は送った。



恵子はうつむいていた顔をゆっくりと上げ、弥生に視線を向けると思いもよらない事を言い放った。


「・・・私は・・・私は、嬉しかった・・・」


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