恐怖 DUSTER
・・・それだけの事って・・・!


自分の体が失われていった事を、素っ気無く言う恵子の感情の変化に、弥生は戸惑いを見せずにはいられなかった。


・・・お菊の事を、心の底から慕い憧れていた恵子・・・


・・・その、お菊の心を消失させてしまい悲しむ恵子・・・


・・・お菊と入れ替わることができて喜ぶ恵子・・・


・・・自分の体を失っても、何も感じない恵子・・・


まるで恵子の中に、二人の恵子がいるような違和感を受ける。


愛する者の全てを奪う。それは究極の狂喜の愛なのかもしれない?


もしかしたら、その究極の狂喜の愛情に恵子は酔いしれているのか?


喪失という悲しみと、獲得という喜びを同時に経験する事により、恵子の心に過大な負担が生じて感情の起伏が激しくなっているのだろうか?



「・・・ゃょぃ・・・?」




「・・・ゃょい・・・?」




「・・・ゃよい・・・?」




「・・・やよいてば!」



「えっ!」

自分の世界に浸っていた弥生の心を呼び戻すように恵子が叫んだ。


「ちょっと!ちゃんと聞いているの?」


「あっ!ごめん、ちゃんと聞いているよ」


そう答えながら、弥生は同じセリフ、同じやり取りを麻美とした事を思い出していた。


「もう!ちゃんと聞いてよね!」


これまた、恵子は麻美と同じような事を言った。


そのおかげか、恵子に対する不安がやわらいでいくのを感じて弥生は安堵した。





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