恐怖 DUSTER
「あっ!ご、ごめん!そんなつもりは・・・」


恵子を傷つけてしまったと思い込んだ弥生は言葉を失いうろたえた。


「で、でも麻美たちは別に恵子の事を嫌っているわけじゃないからね」


そう言いつつも、恵子は常に弥生か裕子と行動を共にしている事が多かった。


今にして思えば、どちらかといえば麻美が恵子を避けているようにも思える。


恵子は麻美が心を入れ替わってからずっと疎外感を感じていたのかもしれない?


「嫌われてないかもしれないけど・・・怖がられているよね・・・」



乾いた声で恵子がそう言った。



「そ、そんな・・・」



弥生は否定の言葉を言おうとしたが、恵子の他人に入れ替わる能力には少なからず恐怖を感じていて言葉を詰まらせる。



「大丈夫・・・誕生日がくれば私は消えるから・・・」



「だ、誰と入れ替わるの・・・?」



「ごめん・・・それは言えない・・・」



恵子の入れ替わりとは、自分自身の存在の消滅という意味もあるのだろう。
恵子は入れ替わった者の人生に存在し続けて、やがてそこから存在しない者へとなる。



恐らく恵子は長い年月、自身の矛盾の人生を入れ替わり続けてきた。



「他人の人生を生きる」という矛盾の人生を・・・




「ねぇ、恵子?どうしても入れ替わらないといけないの・・・?」


「うん・・・私ね、麻美が入れ替わったらそうするって決めていたのよ・・・」



・・・麻美が入れ替わってから・・・?



自分の知らない麻美と恵子の関係に、弥生は興味を惹かれる。



・・・麻美と恵子の間には何があるのだろう・・・?
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