恐怖 DUSTER
そんな弥生の思いが伝わったのか、恵子が麻美との事を話し始めた。


「私が麻美と出会ったのはね、あの事故の時なのよ。その時、私はまだ恵子じゃない別人だった」


「恵子じゃない!」


「そう恵子じゃなかったの・・・その時の私は38歳のベテラン看護士だったのよ、新しく入れ替わる体を見つけやすくするため、入れ替わってから職業につくときは必ず看護士になっていたのよ」


「・・・看護士に・・・」


天真爛漫な少女である恵子の記憶しかない弥生は、38歳のベテラン看護士の恵子のイメージができずにいた。


「これでも腕のいい看護士だったんだから!」


たしかに、仲間内で誰かが怪我や病気をすると、恵子は的確な治療とアドバイスをしていた事を弥生は思い出した。思い出したといっても、この記憶は前の弥生の記憶なのであるが・・・


「だから、恵子は誰かが怪我や病気をした時にテキパキと治療できたのね」


そう弥生に言われて、恵子は少し得意げな顔をした。


「それでね、私の勤めていた病院に麻美と恵子が転院してきたのよ」


「麻美と恵子が一緒に・・・?」


「一緒では無かったわ、恵子が先に転院してきたの、意識を取り戻すことなく眠り続けたままね。そして私が恵子の担当の看護士になったの」



「その後に麻美が通院してくるようになったわ・・・麻美と言ってもまだ入れ替わる前の麻美だけどね。情緒不安定で精神科に通院していたのよ」



恐らくその時の入れ替わる前の麻美の情緒不安定の原因は、あの暗闇の場所から麻美が恐怖を与え続けていたのが原因なのだろうと弥生は思った。



「でもね・・・恵子の心はどんどん光を失っていった・・・毎日、恵子のお母さんは見舞いに来てたけど回復の見込みは全く無かった・・・」



「何度も恵子の心に触れていたけど、恵子は全く反応しなかった・・・」



「それで・・・あの、意識を取り戻すか消えるかの選択を選ばせて入れ替わったの・・・?」



恵子は、そう弥生に問いかけられ、静かにうなずいた・・・





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