恐怖 DUSTER
「その時の麻美はね、まだ前の心の麻美だったのよ」


今の麻美のイメージしか無い弥生は、前の心の麻美に興味を惹かれる。


「その当時の麻美はどんな感じだったの?」


興味深い視線を向ける弥生の瞳には、幼子のような純真な輝きがあった。


「当時の麻美は、情緒不安定に悩まされて事故の後遺症なのかと、私が勤める病院に通院していたのよ」 


・・・それって、もしかしたら前の麻美の心の奥底にある、あの暗闇の場所に閉じ込められていた今の麻美の心が原因だったのかも・・・


弥生の考える事が解ったのか、恵子が唐突に言った。


「情緒不安定な原因は今の麻美が、封印されていた心の奥底から何度も語りかけて恐怖を与え続けていたからなのよ」


「恵子は、その事を知っていたの?」


「まさか!出会ったばかりなのに解るわけ無いじゃない!・・・それに私はその時は恵子との入れ替わりのことばかり考えていたから、麻美の心には触れなかったもの」


「そうなんだ」


「そうよ、私が麻美と深く関わるようになったのは恵子と入れ替わった後なのよ」


ふと弥生の中で疑問が生まれる。・・・麻美はどうやってあの暗闇の場所から新しい麻美の心に語りかける事ができたのであろう・・・


・・・私は、あの暗闇の場所からは何もできなかった・・・


・・・今日、前の私の心と入れ替わる事ができたのも麻美のみちびきがあったからこそ・・・


・・・まさか麻美にも、恵子のような不思議な力があるのだろうか・・・?



・・・そういえば、千恵や里美からは感じなかった恵子と同じ魔性を・・・



・・・麻美からは感じた・・・



・・・もしかしたら、麻美も恵子と同じなのだろうか・・・?



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