恐怖 DUSTER
「あれはね、私が恵子と入れ替わって一週間ぐらい経った日のこと」


「麻美がね。あっ!前の心の麻美がね、物凄く疲れた表情で病院の廊下に一人で座っていたのよ」


「恵子、前の心とかって言わなくてもいいよ解るから・・・」


遠慮がちに言った弥生の言葉に、ほっとした表情で恵子が笑顔で答える。


「そうだよね、解るよね。それでね、私は病室に戻る途中だったんだけど、なんとなく麻美のことが気になって隣に座って話しかけたのね」


「そ、それで何を話したの?」


「何も・・・」


「えっ?」


「何も話さなかった・・・て、言うより私が麻美に何度も話しかけても何も答えてくれなかったのよ」


「それでどうなったの?」


「そのまま看護婦さんに呼ばれて、麻美は診察室の中に入って行ったわ」


「へっ・・・?」


何事も無かった話しに、弥生は期待を裏切られたような複雑な視線を恵子に向けた。


恵子は、弥生の視線に笑顔を向けて言った。


「私も病室に戻ろうかと思ったんだけど、なぜか麻美の事が気になり、そのまま麻美が診察を終えて出てくるのを待ったのよ」


弥生は、最初に肩透かしを受けたような恵子の言葉に落胆の表情を見せていたが、話しに続きがある事を知り安堵した。


「やがて診察を終えた麻美が出てきたけど、それがね可笑しいの♪麻美を支えるように一緒に出てきたのが、恵子と入れ替わった後の新しい心を持った38歳のベテラン看護士の元私だったのよ♪」


なんだかまた、話しが脱線するような気配を悟り、弥生はたまらず恵子に言った。


「今は元の恵子の話はしないでね?」


恵子は、もしかしたら脱線する事で私の表情が変わる事を楽しんでいるのかもしれない?恵子との記憶にはそういう場面が多かった。


「麻美の事を聞かせて?」


自分が思い描いていた話の展開に持っていく事ができず、恵子は少し不満げな表情で答えた。


「わ、解っているわよ。麻美の話でしょ!」


してやったりと、心の中で下を出す弥生であった。
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