恐怖 DUSTER
「それから、私は麻美のことが気になって元の看護士の私にも聞いたのよ」


また元の看護士の恵子が出てきたことにより、弥生が強い視線を恵子に向ける。


「解っているって、脱線しないから。いまの展開は話の脈絡だから!」


弥生には珍しく強めの主張をしたことにより、これまた珍しく恵子は弥生に気を使いながら話をしている。


「麻美の過去を知ってから、私は何度も麻美と会ったのよ」



「だけど、やっぱり麻美は一言も何も喋らないのよ、毎日診察室の前の椅子に座って、黙って診察を受けて帰っていく・・・それの繰り返しだったわ」


「でもね・・・私は麻美が聞いていなくても構わず麻美の横に座り喋り続けたの、毎日毎日ね♪」


元々の恵子は事故に遭う前までは活発なよく喋る子であった。

そのため、入れ替わって恵子の記憶を融合させた今の恵子も必然的にお喋りになってしまったのである。


「そしてね、ある日気がついたの・・・いくら私がお喋りでも、何も答えない麻美に何故こんなに語りかけているのかが・・・」


「どうしてなの・・・?」


「ほら♪よくあるじゃない!たとえ会話が無くても、自分の話しに耳を傾けてくれる人にはついつい話し込んでしまうってことが」


恵子の話の意図がなんなのか、ぼんやりと見えてくる。


「私の話をずっと聞いていたのは・・・心の奥底に閉じ込められていた麻美だったのよ・・・」


弥生は麻美が自分に話した、あの暗闇の場所に閉じ込められていた時の事を思い出していた。


・・・麻美があの暗闇の場所で聞いていた声は恵子だったんだ・・・


弥生の中で、ひとつの疑問が消えていった。



「私ね、その時に入れ替わりの話をしたのよ・・・」


「そしたらね、私の話しになんの反応もしなかった麻美が何故かその時だけ視線を私に向けて聞いていたのよ・・・」


恐らくその時の麻美の心は恐怖により崩壊寸前であったのだろう。


そして恵子の話により、麻美達は同時に知ったのである。


自分に恐怖を与え続ける者が何者であるのか・・・


自分がどうすれば暗闇の場所から解放されるのかを・・・


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