恐怖 DUSTER
思い悩む弥生の様子を見ながら、恵子は満足げに話を続ける。


「目を閉じると、はっきりと頭の中でもう一人の麻美が見えるのね」


「その麻美は、何か私に訴えかけるように話しかけているんだけれども、なぜか声が聞こえないのよ」


話を続けられても理解のできない弥生は益々思い悩んだ。


そして、その表情を満足げに恵子は見つめた。


「しばらくしてから、私はある事に気がついたのよ。私の胸の辺りから何か光の紐のような物が出ている事にね」


「光の紐のような物?」


「そうそれは本当に光の紐みたいだったのよ。その光の紐は、私の病室の外のほうへとずっとのびていた」


「で、でもそんなに長いものなら、恵子はすぐに気づかなかったの?」


「気づくわけ無いじゃない」


「どうして・・・?」


「だって、その光の紐は目を開けている時は見えないんだから」


「・・・目を開けていると見えない・・・?」


恵子の話を聞けば聞くほど、訳が解らなくなっていく。


その弥生の思い悩む姿に満足したのか、恵子が核心へと話しを始めた。


「その光の紐は目を閉じると見えるの・・・もう一人の麻美と同じにね」


「そして、私は病室の外へと伸びている光の紐の後を、目をつぶりながらたどって行ったの、その光の紐は麻美が入院している病室へと続いていたわ」


「麻美が入院?」


「あっ?言ってなかったっけ?・・・その当時の麻美は、もう精神がボロボロになっていて入院していたのよ」


おそらく、恵子との会話によって心の奥底に閉じ込められていた麻美が、自分の存在を賭けて前の麻美に対し強烈な恐怖を与えて精神を追い詰めて行ったのであろう・・・


麻美が与えた恐怖は、自分が前の弥生に対しておこなった恐怖よりもはるかに大きなものであったのだろうと弥生は思った。


「麻美が入院している病室は精神科病棟だったから、そこまで目をつぶりながらたどり着くのは本当に大変だったんだから・・・」


恵子にそう言われて、目をつぶって光の紐を悪戦苦闘しながらたどって行く恵子のその状況を想像してみると、弥生の気持ちは少し和んでいくのであった。


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