恐怖 DUSTER
麻美が弥生の頬を打つたびに、裕子と恵子は辛そうに視線をそらした。



「う・・・うぅぅ・・・ん・・・」



その時、弥生のうめき声のような声が、かすかに聞こえた。麻美たちは一斉に弥生に視線を向ける。



「や、弥生!気づいたの?早く、早く名前を言って!」



麻美の叫び声のような問いかけに、瞳を閉じたままの弥生はかすれた声で呟いた。




「な・・・名前・・・」



麻美の問いかけに反応した弥生を見て、僅かな希望の灯火が自分達を照らし始めたように感じ、裕子と恵子も弥生に大きく強い声で言った。




「そう、弥生!名前よ、あんたの名前を言うの!」




「弥生、お願い早く!早く自分の名前を言って!」




「・・・な、名前・・・?」




弥生は、裕子達の声に反応はするが、いまだに意識がはっきりしないようである。




麻美が、弥生の両肩を力強く揺り動かし叫んだ。




「名前よ弥生、解る?あなたの名前の、弥生と言いなさい早く!」




「・・・わ、わたしの・・・な・ま・え・・・?」




「そうよ!あなたの名前、弥生と言いなさい!早く、早く!」




今にも弥生の体の中に溶け込んでいく、女と視線を合わせながら麻美は必死に弥生に訴え続けた。




「弥生、お願い!弥生の後ろにる女の子が今にも、あなたの中に入っていってしまいそうなのよ。それを止める事ができるのは、弥生が自分の名前を言うしかないの!」




「お願いだから、女の子が弥生の中に消えてしまう前に、あなたの名前を言って!」




麻美は、弥生を抱きしめ何度も何度も涙ながらに訴えていく。




「お願い、弥生!お願いだから!」




麻美の激しい訴えに、言葉を失う裕子と恵子。




自分を抱きしめ耳元で何度も訴える麻美の言葉に反応し、弥生は弱々しい声で言った。







「・・・や・・・よ・・・い・・・」






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