恐怖 DUSTER
「お願い・・・いかないで・・・戻ってきて・・・お願いだから・・・」



麻美は弥生を強く抱きしめ言い続ける。



「戻って!お願い戻ってー!」



「うぅぅああああぁぁぁ・・・おおぉぉぉああぁぁ・・・」



麻美に抱きしめられながら、弥生は苦しげに呻き続けている。



その両目は、いまだに閉じられたままであった。



裕子と恵子には、弥生の身に起きていることがとても恐ろしく、麻美のように弥生のそばに寄り添う事ができずにいた。



「ねぇ、麻美!弥生どうしちゃったの?後ろの女はいなくなったんじゃないの?」



麻美と弥生の後方から声をかけることで精一杯の裕子。



恵子は、その場でへたりこみ放心状態で、不気味な呻き声を上げる弥生を見つめていた。


「おおぉぉぉあああぁぁ・・・ううううぅぅぅうううぁぁぁぁ・・・」



次第に大きくなる弥生の呻き声に、恵子は恐怖のあまり耳をふさぐ。




裕子もその場から逃げ出したい衝動を必死でこらえながら、弥生を抱きしめ声をかけ続ける麻美を見て思った。


・・・麻美、すごい・・・弥生のためにそんなに強くなれるなんて・・・




恐らく、麻美の行動を見ていなければ、自分は既にこの場から逃げ出していただろう?


麻美の弥生を思う姿があるから、いま自分はこの場にいる事ができる。



しかし、自分は麻美のように不気味な呻き声を上げ続ける弥生に、寄り添い声をかけ続けることはできない・・・


・・・怖い・・・わたしは、いまの弥生が怖い・・・



裕子の中で、弥生に対する麻美と自分の想いの強さの違いを知らされ、打ちのめされたような気持ちになっていく・・・




その、裕子の気持ちと同じような想いを、恵子も感じている・・・






麻美に対して、敗北感と嫉妬が入り混じったような複雑な気持ちを・・・




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