恐怖 DUSTER
麻美は、弥生を言い含めるように強い口調で言った。


「だめよ!前の弥生はあなたから全てを奪った憎むべき相手なのだから」



そう言い切ると麻美は自分の話しを戻していく。



「恐怖がね、消し去る事のできなかった7歳までの心を呼び起こす事ができる唯一の手段なのよ」


自分の存在が前の弥生にとっては恐怖でしかなかった事に寂しさを感じる。



「弥生、あなたが現れて来てくれて本当に嬉しかったわ」



「私の場合と違って、今日があなたを呼び起こす最後のチャンスだったから」


「最後のチャンス?どういうこと・・・?」



「弥生は、私と違ってあの事故の時でも心が壊れなかったから新しい弥生の心に記憶を奪われ消去されたんだと思うの?」




・・・私は消去された・・・



・・・じゃ今の私は存在しないんじゃないの・・・?



弥生の心は疑問に溢れていく。



「でもね・・・これは憶測でしかないんだけど?弥生は完全には消去されずに、心の一部が私と同じように新しい弥生の心の奥底に封印されたんだと思うの」



「心の一部・・・?」



「そう、一部なの。だから今日あなたが現れた時も、あなたは自分が何者であるかも解らなかったのよ」



たしかに麻美の言うとおりである。自分は前の弥生の後ろに現れた時でも自分が何者なのかは全く解らなかったから・・・
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