恐怖 DUSTER
弥生はほんの少しだけ麻美の笑顔に恐怖を感じていた・・・


おそらく今日までの弥生の記憶の断片の中に、僅かに残った人格がそう思わせているのかもしれない・・・


弥生はすぐにその思いを打ち消し、麻美に笑顔を返した。


「本当に良かった。あなたを蘇らす事ができて・・・」


「ひとつ間違えたら、あなたは完全に消去されてしまうところだったから」


「私が、完全に消去!」


麻美の言葉に弥生は驚いた。


「そうよ、弥生が恐怖して心を壊していくたびに、封印されていたあなたは自由になっていったけど、最後に入れ替わるにはどうしても弥生が自分の名前を呼ぶことが必要だったの」


「弥生ちゃんが自分の名前を呼ばなければ、私は入れ替われなかったの?」


麻美は弥生の問いにうなずき話を続けた。


「私ね、自分が麻美の中にいた時になんとか奪われた記憶だけでなく体も取り戻そうとしたのよ」


「ずっとそれだけを考えていたの・・・麻美の新しく蓄積していく記憶を少しずつ奪いながらね」


「そして麻美に恐怖を与えている時にね、奇跡が起きたのよ」


「奇跡?」


「そう奇跡なの!」


麻美は笑いが込み上げてくるのを抑えているようだ。


「奇跡というより、偶然かな?」


「私ね、麻美の心を恐怖で壊しながら考えていた時にね、麻美が私に言ったのよ」


「あなたは・・・誰なの・・・?てね」


「その時の私にはちゃんと自分の記憶はあったから、その言葉に不快を感じたの・・・」


「だから言い返してやったわ」


「あなたこそ誰なのよ」てね。


「それから私は毎日麻美に言い続けたわ、あなたは誰なのよ!てね」


「そうしたらね。麻美の心は恐怖で崩壊していき、ついに私に答えたのよ」



「・・・私は・・・麻美・・・」



「・・・そう一言ね・・・」
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