恐怖 DUSTER
「もしも~し、弥生?」


弥生は、声の主の記憶を瞬時に呼び起こした。


正確に言うと、前の弥生の記憶であるのだか・・・


「そ、その声・・・まさか・・・」


いまの弥生には面識の無い相手ではあるが、前の弥生の記憶では鮮明にその人物の声も顔も性格までも理解している。


その記憶を受け継いでいる今の弥生も驚いた。


「あ、あなた・・・千恵、千恵なのね!」


想像もできなかった相手に弥生は声を上げて驚いた。


「ピンポ~ン。正解だよん」


弥生とは対照的に千恵は軽い口調で言った。


「良かった~ちゃんと私の記憶も前の弥生から受け継いでくれたのね」


「ち、千恵は入れ替わりを理解しているの?」


「へっ?」


弥生の質問が理解できず、返答に困ったのか千恵はしばらく無言になってしまった。


「もしもし、千恵、聞こえてる?」


「えっ?あっ、聞こえてるよ?・・・弥生が変なこと言うからビックリしちゃったじゃない」


「あっ・・・ごめんなさい・・・」


「プッー」


携帯の向こうで千恵の笑いを噴出す声が聞こえる。


「弥生は入れ替わっても、その性格は変わらないのね?別に責めてる訳じゃないんだから誤らなくていいってば」


「あのね、弥生。私はあなたより半年も早く生まれてるんだから、とっくに入れ替わりも体験しているし理解しているよ」


弥生は記憶の糸をたどって千恵の誕生日を思い出していた。


「そうか!千恵は7月生まれだったんだよね」


「そうそう、麻美が5月で私が7月で・・・」



千恵の言葉をさえぎるように弥生が言った。



「里美が12月で、私が1月!」



これで弥生にも、麻美が言う「試した」という言葉が理解できたのである。




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